なにげない場面にこそ文化が宿っているのだ。映画を見ながら、その背景に一国の文化を読み取るのはそれほど簡単なことではない。ストーリーを追うのに忙しくて、細部まで観賞する余裕がないことも、その理由の一つである。また、さまざまな場面に見られる彼らの日常生活の姿はたいてい非常に自然に処理されているので、とくにおもしろい場面でないかぎり、なかなか私たちの記憶には残らない。たとえば、小さな男の子が歯を磨いている背後で、父親が鏡をのぞき込むように出勤前のひげを剃っている場面などがそうだ。そのほほえましくも温かい印象によって、映画のタイトルは忘れても、そのシーンは多くの人の記憶に残る。あるいは、男と女が稲妻のように情事を交わしたあと、すぐにメガネをかけ直して残りの仕事にとりかかる場面なども、映画のストーリーには直接関係なくても、彼らの文化や生活が垣間見える印象深いシーンといえる。まさにこうした場面こそ、われわれとは異なる文化の一面を知らせてくれる格好のヒントとなるのだ。